アサーション_0401

「対話の豆知識」で皆さんと一緒に読み始めた「改訂版 アサーション・トレーニング」。その4章の前篇では、日常会話でのアサーティブな自己表現のコツをみました。会話を進める司会者もいなければ、話題も決まっていない、社交的な会話が求められる場面での自己表現です。ですが会話は、その様な「人間関係をつくり維持する」ためだけになされる訳ではありません。会話にはもうひとつ、課題達成や問題解決を図ったり、意見を交換しつつ考えを練り高めたり、対立の解消を図ると云う機能や目的もあります。

第4章 アサーティブな表現 ~言語表現の二つの場面(後編)~


課題達成・問題解決のためのアサーション ~台詞づくのステップ~

課題達成・問題解決(タスク)のためのアサーションとは、会議の場、話し合いで何かを決めたり課題を達成したりする場におけるアサーションのことです。あるいは、うまく言えそうもない事を言おうとするとき、何と言ったらいいか迷うとき、話が複雑できちんと整理する必要があるとき、自分の気持ちや考えを明確にしてから話す必要があるとき、などに役立つ云い方のことです(平木,2009)。こうした台詞づくりのステップとして、平木はバウアー夫妻とケリーの「DESC法」を紹介しています。

(1) DESCとは何か
・Describe (描写する)
現在の状況や相手の行動を描写する。客観的で、具体的に、特定の事柄&言動について描写すると云うことであって、互いの動機や意図や態度について述べることではない。

・Express,Explain,Empathiz(表現する、説明する、共感する)
状況や相手の行動に対する自分の主観的な気持ちを「表現」したり「説明」したり、相手の気持ちに 「共感」する。建設的で明確に、そしてあまり感情的にならずに述べること。

・Specify(特定の提案をする)
相手に望む「行動」や「解決案」や「妥協案」などを提案する。具体的で現実的な小さな行動の変容について明確に「提案」を述べること。

・Choose (選択する。代案提案を含む)
提案に対する相手の反応が「肯定的な場合」と「否定的な場合」との両方があることを想定しておき、どう行動をするかの「選択」 肢を示す。具体的で実行可能、相手を脅かすものではないよう配慮する。

と云う事で、それぞれの頭文字をとって DESC法 と云う訳である。

(2) 具体的なDESC法による台詞づくりの例
ここではありがちな酒の場面の男性のケースを考えてみます。

<ケース>

会社員。いつも居酒屋。焼き鳥を肴に同僚とカウンターで。同僚は上司の悪口に勢いづき話やむ気配もない。酒のペースも早ければ、酔いも進んでいる様に見える。いっぽう貴方は、楽しいは楽しいが何せ明日は朝一番で重要なプレゼンテーションが控えている。帰って資料の下読みもしたい。適当に切り上げなければ不味いと感じている。
こうした場面で同僚に次の店に誘われたら……。DESC法で台詞をつくってみます

(D):かなり飲んだね。ふだんの倍だ。ちなみに俺は例のプレゼンの準備が残っている。
(E):週半ばでの二日酔いも心配だし、なにより明日に備えたい気持ちなんだよなぁ……。
(S):今日のところは、そろそろお開きにしないかい?
(C1):それだったら、体調もまずますだろうから、明日もまた飲める。
(C2):けど、まだ飲みたい気分なら、次の店はやめて、ここで後一杯だけつきあうよ。

と云った感じでしょうか。まず「既に飲み過ぎている事」と「自分の明日の予定」とを客観的に「描写」しました。「飲み過ぎだぞ」とか「俺は明日大変なんだよ」とかと云った主観は交えません。そして「明日のことが心配」だと云う自分の気持ちを「説明」します。そのうえで「もう帰ろう」と云う「提案」を行い、相手の肯定的な反応を想定しての (C1)明日の 「選択(提案)」 を行いました。更には、否定的な反応を想定しての (C2)「もう一杯だけなら付き合う」 と云う「代案」を提示する、と云う具合です。

もちろん、こんなに長い台詞を全部きちんと述べなくても構いません。端折っても良いし、簡潔に云っても良いです。ただ、何かについてきちんと話をしようとするとき、とっさに何と言ったらいいか判らなくて言い方を考えるとき、相手に分かりやすい言い方をしようとするとき、などに、この順序で言い方を考えると、自分の状況も整理でき、自信をもって、しかも相手に分かりやすい表現が出来ます(平木,2009)と云われます。そして更にDESC法についてケリーは、アサーションはいわば、DESC法の習慣化されたものであり、DESC法を何度も何度も練習しているうちに、無意識にアサーションができるようになるだろうと言っています(平木,2009)。つまりDESC法はアサーションの核心でもある訳です。

アサーションとはたんなる自己表現の「技術」ではなく、人権の問題や、外界や関係の認知の仕方、価値観の問題をも含んだ、広義の「自己表現」ではなのですが、DESC法には端的にそれらが含まれていると云えるのではないしょうか。

さて「4章」では、それらを踏まえたうえで、全ての言語表現の基礎となる心構えについても述べられていますので以下に簡単に紹介しておきます。

第4章 アサーティブな表現 ~言語表現のための心構え~


日常会話と課題達成・問題解決のためのアサーションとをつなぐ

これは「人間関係をつくり維持する」メンテナンスのアサーションがあれば、「課題達成や問題解決、考えを練り高めたり、対立の解消を図る」タスクのアサーションも実現しやすいということの指摘です。タスクとメンテナンスは私たちの生存の両輪であり、双方のアサーションがうまくかみ合うことによって、人がつながり、課題が遂行されて行くのではないでしょうか(平木,2009)

自分を相手に知らせる

他者とコミュニケーションをすると云うことは、多かれ少なかれ、自分の考えや感じたことを「伝えたい」と云う動機があると云うことです。それは自分を相手に知らせることでもあります。それは依頼であっても同じことです。人間関係には多少なりとも自分を開いて見せることが不可欠なのです。それでも、人には知られたくない事柄はありますし、云えないことだってあります。その場合は、変に黙っているよりは「そこの部分はちょっと言いたくないんです」「それは知られたくない部分なんです」と伝えた方が関係は良好になります。

「おまけ」の情報を提供する

質問と云う「支払い」に対して、答えと云う「商品」を提供するだけでなく、なにか「おまけ」の情報を提供した方がコミュニケーションは円滑になると平木(2009)は云います。例えば「スポーツは好き?」と質問されて「いいえ」と答えて終わっては、話もそれで終ってしまいます。ですが「いいえ。見るのは好きなんですけどね」「いいえ、どちらかと云うと読書や音楽とかインドアで楽しめるものが好きなんです」と答えれば、かなり状況が違ってきませんか。「へぇ、どんなスポーツを見るの?」「そうなんですね。どんな本を?」などと云う展開があり得ます。

質問を使い分ける

会話で使用される質問には二種類あります。ひとつは 「開かれた質問(Open Question)」 で、もうひとつは「閉じられた質問(Closed Question)」 です。閉じられた質問とは 「はい」「いいえ」あるいはひと言で答えられる質問です。例えば「スポーツは好きですか?」「ご出身はどちらですか?」と云った質問。一方、開かれた質問とは、その逆で、ひと言では答えられず、応答の内容を相手に任せる質問です。「スポーツのどんなところが好き?」「故郷で特に思い出す事はどんな事ですか?」と云った類の質問。

開かれた質問 は、答える人が話したいことを選択する余地があり、それだけ自由に話せますし、また質問する側が思いもしなかった話が出てくる可能性も含んでいます。情報が多く得られ、話を広げ、新たな視点や考え方を引き出すのにも役立ちます(平木,2009)。一方、閉じられた質問は、必要な情報を端的かつ明確に収集するのに役立ちます。両方の質問を効果的に使い分ける事を、言語表現では心掛けたいところです。

積極的に相手に耳を傾ける

これは、当然と云えば当然の話です。話す人は聴いてくれる人がいるので話せる訳であり、また、相手がきちんと聴いてくれないと話すことは難しいのです(平木,2009)。当たり前ではあるのですが、これがまた実際にはなかなか難しいものです。私たちは、常に人の話に関心を寄せ、熱心に耳を傾けて聴いていると云えるでしょうか? そいう意味で、改めて 「聴く」 と云う事を意識しておくのは、心構えとして重要です。

ところで、コミュニケーションとは言葉によってなされるものばかりではありません。身振り、表情、視線、姿勢、外観、生理反応、反復行動、話し振り、身体スペース、時間概念、と云った非言語的なコミュニケーションも重要です。 「第5章」では、そうした非言語的表現におけるアサーションが語られます。ちなみに「第6章」は「アサーショントレーニングの実際」の簡単な紹介になっているので、ここでは割愛します。と云う訳で、次回の「対話の豆知識」は、アサーションについての最終回「第5章 言葉以外のアサーション」です。


アサーション

【文献】
平木典子(2009) 「改訂版 アサーション・トレーニング 」 日本・精神技術研究所


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