話し相手20161006

「こうなりたい」 「こんな状況を手に入れたい」 そう思う事が人にはしばしばあるだろう。あるいは逆に、苦手を克服したいとか、あの人が嫌いだけどそうでなくなりたい、 などと云った場合もあるだろう。問題は、どうやって、そうした自分の欲しい状況を手に入れるか……。もちろん努力を積み重ねるのが正攻法である。だが、方法は他にもあるだろう。

ひとつには、その望んだ状態を、とりあえず形だけでも、先に手に入れてみると云うものがある。こんな話を聞いた。嫌いな人や、これから会う予定の人に対して、「ありがとう」と何度も繰り返し声に出して云ってみる。その人に直接云わなくても、口に出すだけで良いのだそうだ。すると僕たちの脳は、仮にその人に感謝すべき点を認めていなかった場合、言葉(行動)と認知との間の不一致に、不快感を感じ、その人の感謝すべき点を探し出し認知を変更しようとする……と云う話である(ひすい,2005,名言セラピー)。

この事は色々な角度から説明がつくのだろうが、アメリカの社会心理学者であるフェスティンガー(Festinger,L)が提唱した「認知的不協和」の理論でも説明できる。この考えは「人は自分のなかに相反する認知(信念、態度、事実、これまでの行動など)を抱えた状態(認知的不協和)に陥ると、不快感を感じ、これを解消するために自分の認知や行動を変更する」とするものだ。

認知的不協和の有名な代表例としては 「喫煙」 の話が挙げられる。当たり前だが、喫煙者とは、これまでも現在も喫煙を続けている人の事だ。つまり煙草を吸うと云う 「行為」 がまずある。これまでの自分に対する認知と云っても良い。この人に「喫煙は発ガンのリスクを高める」 と云う情報(認知)が提供されたとする。この時点で、「行為」と「認知」との間に、あるいは2つの認知の間に不協和が生じる。さらに与件として、煙草には依存性があり禁煙は辛いという状況が加わる。するとこの認知的不協和を低減するために 「認知」 が否定されやすい。つまり 「あの人は煙草を吸いつつ100年も生きた」「煙草を吸わないで生じるメンタルの不具合の方がハイリスクだ」 と云った具合である。

先の 「ありがとう」 の話はこの認知的不協和を逆手にとった、嫌いな人に対して少しでも好感を寄せる方法、と云うことも出来る。そういう意味では、こんな事もある。好きでもない男性、どらかと云えば嫌な相手だったが、仕事上やむを得ずペアで働き続けているうちに、好感を持ってしまったと云う様なケースである。「嫌いだ」 と云う認知と 「いつも一緒にいる」 と云う行動との不協和を認知を、変更することで低減したと説明できるだろう。無論この場合は近接性の要因でも説明できるが……。

だとすれば、こんな利用法もあるだろう。解決志向アプローチの方法論と酷似してくるが、たとえば社長になりたい人がいたとする。ならば既に、社長になったように振る舞うと云うものである。社長はどんな時間の使い方をするだろう、どんな物の考え方をするだろう、こんな弱音を吐くだろうか?……etc.と考えれば、導き出されたそれと、その人のこれまでの行動や認知との間に不協和が生じる。低減させるのは簡単だ。真似ることで現実の認知を変更すれば良い。そうするうちに取り巻く状況も次第に変わってくるだろう。憧れのあの人と付き合ったら自分はどんな日常を送るだろう? そう考えて、そうなった時の様に振る舞えば、自然とその人の魅力は増しているのではないだろうか?

と云う訳で、僕はまだまだ未熟ながら、常々、優秀な心理臨床家になりたいと考えているので、既にマスターセラピストのごとく振る舞っている……?


<文献>:ひすいこうたろう(2005)名言セラピー,ディスカヴァー・トゥエンティワン


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